【痛快】フルヴィオ・ブレッサン氏による「フリウリ・ワイン生産者仕分け」 | Bressan 訪問 2/4

フリウリの固有の地場品種。伝説的な赤ワイン用葡萄、「ピニョーロ」とは。

ピニョール1997が入っている樽

F:「さーて。 まずは、 ” Pignol 1997 ” だ。 これは僕の趣味のワインだ。(笑) 1樽だけ残してある。

いつボトリングするんだって、よく他人に聞かれるけど、ゴメン、これは全て僕のモノだぜ。

売りモンじゃない。 素晴らしいワインなんだだけどね。
だって畑も葡萄の木も僕のモンなのに、僕が働いて造ったワインに対して、どうして赤の他人に、売るか売らないかを決められなきゃ、ならないのさ。(笑)

この ” Pignol 1997 ” はな、この品種最良のモノだぞ。さあ、試してみな。いつかフリウリのピニョーロが、バローロのように語られるようになる。」

※商品名は ” PIGNIOL (ピニョール) ” だが、フルヴィオ達は葡萄の話をするときは「ピニョーロ」と言う。

獣臭、熟成したプルーン、ライム・ストーン(古いバルバレスコに近い香り)血のニュアンス。
何より均整のとれた、しっかりとしたボディ。

エレガントで長い酸味。豊富なタンニンは感服するまでに円やかになっている。
「肉桂」のようなオリエンタルな香りも、彼のピニョーロにはある。

J:「ワインに詳しい人は、はフリウリを「白ワイン聖地」のように言うけど、私達はそうは思っていないの。
スキオペッティーノ、ピニョーロ、レフォスコ、どれも本当に素晴らしい赤ワイン。

私たちはファッラに畑を持っていてラッキーだと思うわ。コッリョの生産者達の中には、地質の特徴から良質な赤ワインを造ることができない人だっているでしょ。」

T:「コッリョには ” PONKA (ポンカ) ” という地質名称があるけど、ファッラ・ディゾンツォにはないの?」

J:「特にないのよ。 ” Irony (アイロニー:酸化鉄を含んだ土壌) ” と呼んでいるだけ。 ブレッサンの畑は、ここファッラに2ヘクタールあって、更に2km離れたコローナに80ヘクタール。」

T:「Carso(カルソ)は目と鼻の先だね。 DEVETAK (デヴェタク)のある丘とか、すぐそばだし。」

J:「カルソも素晴らしい ” Terano (テラーノ) ” という赤ワイン造っているのよ。 カルソ特有のミネラル感が出ている、でも、すこし軽目のワインね。」

T:「初めて、こんな古いピニョーロを飲んだけど、第一印象はまるで古いバローロだね。」

J:「ピニョーロはとても苦いタンニンを豊富に含んでいるので、飲み頃になるには膨大に時間が必要ね。

最近じゃピニョーロを造るフリウリの生産者が増えてきて、05、06といったヴィンテージが市場で観るけど、そんなピニョーロを買ったタイミングで美味しく飲むのはとても無理だわ。(笑)」

ブレッサン氏は、中身のないワインばかり造る、フヌケた生産者が許せない?!

T:「雨の多いフリウリなのに、偉く濃く凝縮しているね。どうやっているの?」

J:「フリウリは、年柄年中雨が多い、というわけではないのよ。通常は春に集中して雨が降り、夏はとても暑いの。

2003年は猛暑で土が、カラカラに乾燥したのよ。気候は毎年違うわけよ。それでも、なぜか毎年同じように、ワインを造る造り手はいるけど・・・。」

Y:「ここに来る前に、Ed* K*b*r の所で、2008年と2009年をテストしたけど、2009年に比べ2008年は少し水っぽく感じた。」

J:「例えば2005年は夏も雨が多く、私たちはワインを造らなかったの。収穫すらしない葡萄もあったわ。

あの時は、20ヘクタールのスキオペッティーノの葡萄だけが、僅かに満足のいくレベルに達したけど、クライアントとも相談した結果、最終的に2005年のワインは、全て出荷しないことに決めたの。

自然の影響によって葡萄の出来映えが毎年異なるのは、当然のことだしね。

逆に、2003年は夏雨が降らず、土が乾く程の猛暑の年だったけど、私たちは、敢えて、一切水をまかなかった。

実際、この年は、多くの造り手が畑に水をまいたのよ。でもオカシイじゃない。 

『コッリオ』を名乗るなら、本来ならば、土の中に、水分は十分に含まれているはずでしょ。

ここ5年位の間にワインを造り始めた人達は、あの猛暑一喜一憂して、多いに悩まされたみたい。

でも、私たちは(数百年もこの土地でワインを造っているから)そんな心配したこと無いわ。

2003年は、本当に美しい程に葡萄の実が育ったのよ。特にピニョーロは樹勢が非常に強くて、水分を沢山吸収してしまう品種なのよ。

愚かにも、水をまいた人の葡萄は、すくすくと勢いよく育って、凝縮感の無い葡萄になってしまったわ。」

T:「樹勢が強い点も、ピニョーロはネッビオーロに似ているね。 その点、メルローはイージーなの?」

J:「そうね。メルローは少し違うわね。 

メルローもカベルネ・ソーヴィニョンもフルヴィオのお父さんの時代に植えたものなのなんだけど、今は少しずつ地葡萄に植え替えをしている。

バローロやブルネッロのように、フリウリではもっと地場品種を造るべきね。 国際品種ばかり崇拝するのは愚かだわ。」

心の師「ヨシュコ・グラブネル」と「スタンコ・ラディコン」について

T:「でも僕は、初めてラディコンのメルローを飲んだ時は、ショックを覚えたよ。フリウリには優れたメルローも多いよ。」

J:「確かにそうね。でも私達には 『 ファインワインを造るか。コマーシャル(量産)・ワインを造るか。 』という、一つの哲学があるの。 (もちろんブレッサンは前者の立場。)

大多数の企業が、マーケティングを仕掛けて、良質のワインを装い、無知な消費者に粗悪ワインを売り込んでいる。

その姿を見るにつけ、私たちは耐え難い気持ちになる。」

T:「そうは言っても、日本にいては、そんなことは判らないよね。マーケティング先行ワインか否かを見分けるのは難しいよ。

もちろん Radikon (ラディコン)、 La Castellada (ラ・カステッラーダ)、 Gravner (グラヴネル)のワインに関しては、そんなことはないだろうけど。」

J:「グラヴネルのワインは好き?」

T:「ああ、もちろん。日本でも根強いファンがいるよ。でも、正直いうと微妙かな。難しいワインだよね。

哲学は素晴らしいし、パイオニアであるのは間違いないけど、第一値段が高すぎる。

ルーニョは、素晴らしく美味しかったけど。(これもメルローだ。)僕としては、今でも、何故アンフォラで無ければならなかったのか、理由がよく判らない。

確かにグラヴネルのメルローは滑らかだけど、僅か200メートルしか離れていないラディコンの家のメルローに比べて、小さく感じるんだけど。」

梱包作業を終えたフルヴィオが話に加わる・・・。

F:「まぁ、確かに高すぎるな。 実際、20年前スタンコ・ラディコンとグラヴネルは一緒のグループで働いていたんだ。

彼らは、バリックの優位性を証明したけど、多くの人がグラヴネルばかりを称賛した。

これはスタンコ・ラディコン本人から聞いたんだけど、(今でこそグラブネルの偉業とされているが、)フリウリのワインに、バリックを導入するアイデアは、実はスタンコ・ラディコンのモノだったんだ。

その後のことはよくは知らないけど、二人はちょっと確執があったみたいだね。(グラヴネルとの不仲説は、後日直接スタンコ本人に聞いて、完全否定している)
でも僕にとって、ヨシュコ・グラヴネルは、特別の存在なんだよ。

確かに普通の人には、彼のワインはとても理解し難いよね。 グラヴネルはよく人に言うらしいよ。『私はワイン生産者であって、人ではない』ってさ(笑)」

味覚馬鹿は、「お馬鹿ワイン」を、お飲みなさい!

F:「他にどんなピニョーロの造り手知っているの?」

T:「 Zamo (ザモ)や Dorigo (ドリゴ)かな。」

F:「 Moschioni (モスキオーニ)は?」

T:「明後日行くよ。」

F:「モスキオーニは、素晴らしいね。スキオペッティーノやピニョーロ等、アマローネのように陰干ししてワイン造っているぞ。」

T:「 Le Due Terre (レ・デュエ・テッレ)はどう? ピニョーロは造っていないけど、彼らの赤ワインは素晴らしいよね。」

F:「 Flavio Basilicata (フラーヴィオ・バジリガータ)はシリウス!! Silvana(シルヴァーナ)と二人で造っているね。格段に真っ当。」

T:「 V***a & V***a は?」

F:「(失笑して首をふる。)それはジョークか?(笑)

実は、92年のカーレースに参加したんだけど、Giolgio V***a とは同じチームだったんぜ。

世界中の多くの消費者は彼のワインを喜んで買うけど、あれはワインとは言えないな。 ムチャ高な、お馬鹿ワイン。」

・・・いやいや、明後日訪問するの、凄く楽しみにしていたんだけど(汗)。

T:「彼らはサンジョベーゼも造っているって聞いたけど、知ってる?」

F:「(そんな馬鹿なと、驚く奥さんを制して)そう、カラブリアで造っている。でもフリウリじゃ売っていないな。

コッリオの赤ワインのカテゴリーではないからね。まあ、俺からすると、奴らのワインは、ワインとは呼べないな。ガンベロ・ロッソは高評価だけど。

Ma**o Fe****a 、ノー・ワイン!  V***a & V***a 、ノー・ワイン!! Zu**i 、ノー・ワイン !!! 」

個人的にはマーケットと対話することも造り手としては重要なことだと思うが、フルヴィオは、徹底して大資本が嫌いなようである。

これ以上の酷評のインプットは、翌日以降の訪問に支障をきたす。

T:「いや、良いワインを知るには、そうでないワインも飲む必要があるのですよ。 でないと、その違いが分からないでしょ。(笑)」

F:「はは、そりゃ、そうだな。  おっと、もう一つ、これを試してよ。 ” Moscato Rosa 2009 ” 。」

他人(ひと)に売りたくないワイン。ピンク色の至宝、モスカート・ローザ。

モスカート・ローザ
ロゼ色をした、幻のモスカート

T:「モスカート?? ピエモンテやシチリアの甘口ワインと同じ品種?」

F:「ああ、でもドライだ。 しかもピンク。 この気品あるピンクの色合いが特徴だ。」

グラスが小さいのか? フルヴィオが巨体過ぎるのか? まるで御猪口(おちょこ)だ。

それはさておき、確かにモスカート特有の甘い香りがしている、フルーティーなドライ・タイプのワイン。

F:「今は(1ヘクタール)50リトルしか造っていないので、この小さなタンクひとつ分しかない。

オーストリア帝国時代、俺の爺さんの時代には飲まれていた品種。その当時からこの品種でブレッサンは甘口ワインを造っていたんだが、 でも、俺は敢えてドライのワインを造った。

戦後、今の国境になった時、コルモンスやイゾンツォの殆どの人がオーストリア帝国に残りたいと思ったんだよ。

このワインも、他人には売りたくないワインだな。まあ、ボトリングするとしても、たった1日で終わる量しかない。(笑)

葡萄も同じようにピンク色しているぞ。とてもファンタスティックな葡萄だ。」

※訪問した当時、この Moscato Rosa には、まだ商品名はついていたなかったが、翌年、”ROSANTICO (ローザンティコ) ”という名前をつけた。

イタリアの女性、最強伝説

一端セラーの外にでて、フルヴィオの家族にご挨拶をしに、別の巨大なガレージに。

フルヴィオのお父さん Nereo G. BRESSAN(ネレオ・ブレッサン)氏に御挨拶。 お母さんの Paolina(パオリーナ)さんは、甲斐甲斐しく晩御飯の準備をしている。

イェレナの実母、Nina(ニナ)さんにもご挨拶。 ニナさんは、今、イタリアで流行っている、盆栽づくりが趣味で、見様見真似で小さな盆栽を造っている。

「おお、折角日本から来たのだから、パオリーナの特性サラミ・パンチェッタ食べて行けよ!」

偉大なる先代ネレオ氏にお声がけ頂くが、イェレナさんは

「TORUは、これからテイスティングを兼ねて、外に食べに行くのよ。」と、義理パパを一蹴。

もちろん、フルヴィオは、へらへら後ろで笑っているだけ。 イタリアでは、よくある光景。

いや、イタリアの嫁は本当に強いなぁ。

(次へつづきます)

 

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